「では、勤務日数、週5日、勤務時間は午前9時から午後21時までのシフト制。学校がある日は、終ってからでかまいませんし、休みたい時は自由におっしゃってくださいね」

「はい!」

どうせ、部活に入っているわけでもないし、一人でぶらぶら東京散策するのにも、いい加減飽きてきたところだ。社会勉強にもなるし、バイトもいい経験かもしれないと思った。

「あと時給ですが、2000円というのはどうでしょう」

「に、2000円!?」

全国の時給平均は975円、東京の時給平均にしても1,081円だとバイト情報誌で見かけた事がある。

「足りませんか?でしたら……」

「その逆ですよ!!高すぎですって!!」

無能なバイトに2000円って、いくらなんでもそんなにもらえない。全国、県共に平均的に見ても倍近くある時給に頭が痛くなってきた。

「最低賃金でいいですから!私もいろいろプレッシャーになりますし……」

バイト代に見合う仕事が、いきなりできる自信はハッキリ言って無いに等しい。なんたって初めてのバイトなのだ。

「そこまでいうのなら……1800円でどうでしょうか」

「高いです!900円くらいにしませんか?」

──しかも深海さん、全然下がって無いですから、それ!

私は雇い主相手に時給を下げてもらうという、変な値上げ、値切り大会を深海さんと繰り広げていた。

「いえ、さすがに1000円は切れません。では1500円でどう……」

「いえ!1000円でお願いします!!」

「ぐぬぬ……わかりました、妥協しましょう」

妥協って、何故にそうなる。というか、1000円も十分高い気がするけれど、これ以上は深海さんの好意を無下にするみたいで、悩んだ末に「よろしくお願いします」と折れる事にした。

「俺は反対だ」

ここいらで丸く収まると思っていた話題が、ブリザード男によって掘り返された。私は「今度は何ですか」と拓海先輩に説明を求める。

「学校でここの事を面白可笑しく話されたら、たまったもんじゃない」

──もう、そんな事しないのに。

なんでそうつっかかるかなぁと、頭を悩ませていると深海さんが私を庇うように前に立つ。