『これを預かって欲しいの』
母さんは肌身離さず持っていたペリドットのペンダントを来春に渡す。
『これなあに?』
『私の王子様を……あなたが光の道に導きますように』
『王子様?』
『そう、あなたならきっと彼の光になれる』
その彼が俺だという事か。だとしたら母さんは、どこからどこまでを予測していたのだろう。俺と来春が出会うかどうかなど、誰にもわらないはずだ。
『あなたは優しい女の子だから、この出会いが、私の思い描く運命となり、救いとなりますように』
そう、来春も言っていた。
これが母さんの残した謎の言葉。
それだけ言って、母さんはペンダントを手に立ち尽くす来春の前から去る。
『あなたが小春ちゃんに出会い、恋をして、たった一人を想い、想われる事で心救われますように』
──なん……だと?
歩きながら母さんは、信じられない事を言った。
母さんは本気で俺達を出会わせ、それだけでなく恋に落ちるところまでを確信していたという事か。
『拓海が力を正しく使えるように、その力ごと自分を愛してくれますように。このペリドットの如く、拓海の心に根付く闇を払い、太陽の光となりますように……これが、私の思い描く運命』
俺はどうやら、母さんの描く運命とやらに導かれたらしい。
「――い」
すると、天から声が聞こえた気がした。
「――先輩」
あぁ、今度は気のせいではなく確実に。
春風のようにふわりと、俺の耳に届く声。
「拓海先輩!!」
──この声は、そうだ……あいつの声だ。
そう思った瞬間、俺の口元に笑みが浮かぶ。
胸に広がる春のこもれびのような温かさに、俺は自然と思った。
──あぁ、帰ろう、あいつの所に。