『もっと、たくさん教えてあげたい事、あったのになぁ……』

泣きそうな顔で微笑むと、その顔を隠すように俯けた。
そんな時だった。母さんの前に先程駆け回っていた小学生くらいの患児が立つ。

『なにか、悩み事があるの?』

子供は、コテンッと小首を傾げて母さんに話しかけた。
その顔に見覚えがあってハッとする。

──まさか、こいつ……。

その顔に、懐かしさを感じる。
否、もう少し成長したアイツに見覚えがあるからだ。

『なら、私がいるよ』

まるで太陽のように眩しく、くしゃっと笑ったこのガキは恐らく来春だ。来春は肺炎で入院していたと言っていたから、間違いないだろう。

『あなたは?』

『私は、来春っていうの!!』

──やっぱり、こいつ小学生の時からあんまり顔変わって無いな。

天真爛漫さが今の来春に重なって見えて、つい笑みが零れる。

『そう、とってもいい名前ね』

『私は、美葉』

『もし、あなたにしかできない事があるとしたら、どうする?』

『私にしかできない事?』

母さんは意味不明な質問を来春に投げかけた。その時の不思議そうな来春の表情は、俺も同じだっただろう。

『そう、世界でたった一人、あなたにしかできない事』

『お姉さん、笑顔になるなら何でもする』

来春はこの時から人を疑う事をせず、ただ救いたいという一心で行動出来る、優しい奴だった。