『拓海にも、力の本質とは何かを見出して欲しい。そして、いつか拓海の力が誰かを幸せにした時、決して孤独だけをもたらす力ではない事に気づいて欲しい』
『だから……居場所なのですね。この場所で拓海くんを必要とする人達がいる事を知ってもらうために』
『はい、だからもうひと頑張りです』
疲れも感じさせないように、母さんはパッと笑顔を浮かべる。俺のために母さんは頑張ってくれていた。
でも、そのせいで母さんは体を壊し、入院したのだ。
そしてまたパァァッと光が瞬き、世界をのみ込む。
その眩しさに目を瞑った。
光が落ち着いたのを瞼の向こうに感じ、もう一度目を開ける。すると場面は変わり、母さんの入院していた病院の中庭に俺はいた。
小学5年生の秋、ここへ来たのは数えるほどだった。
病室で会っても、母さんと何を話していいのかがわからず、口を開けば文句を言ってしまいそうで、何も言えずにいた日々。
あの時はまさか、母さんが死ぬだなんて思いもしなかったから、俺はそんな態度を取り続けられたんだろう。
もし、明日にでも死ぬのだとわかっていたのなら、俺はもっと素直になれたのかもしれない。
病院の中庭は歩道以外は全て芝生が植えられており、緑の青々しい葉をつけた木々が沢山ある。
母さんは、丁度、木陰にあるベンチに座っていた。
どこか遠い目で、目の前を駆けずり回る小学生くらいの患児を見つめている。
『もう、拓海の傍にはいられない……私に残してあげられたのは、唯一、居場所だけだったわね』
ベンチに腰掛けて、母さんは一人呟いた。