『でも、一度失敗していますから』

それが父さんと離婚した時の事を指しているのは、すぐに察しがついた。

『でも、どうしてもあの子のために居場所を作ってあげたかったんです』

『居場所……ですか?』

深海さんは濡れた手をペーパーで拭くと、母さんの向かいの席に腰掛けて、どういう意味かと尋ねた。

『私の力は亡くなった父から、望む、望まないに関わらず受け継ぎました。両親を除いては、親戚や友人、恋人にも理解されず、ずっと隠して生きてきたんです』

──母さんも……俺と同じだったのか。

どんなに本当だと訴えても、周囲の目は冷たく、突き放すように残酷なものだった。俺の事を理解してくれる人間は誰もいない。そう思ったら、気づいてしまったのだ。
俺は……孤独なのだと。

『たくさん悩んだ。どうして私にはこんな力があるのか、この力は特別なのに、どうして私を孤独にするのか……と』

母さんも俺のように、この力がどうして自分にあるのか、疑問に思っていたのだ。その事実に、俺だけが苦しんでいたわけじゃないのだと教えられたようで、心が少しだけ軽くなる。

『でも、父や私がしてきた鑑定で、誰かの過去の清算、向き合うための一歩に繋がるその瞬間を見た時、私はその答えに辿り着いた気がしました』

『その答えとは、なんでしょうか』

『アンティークや物は目に見える想い。それを守る力が鑑定なのだと。だからきっと、私達は人と人とを繋ぐメッセンジャーなんです』

それは、来春が言った言葉とほとんど同じだった。あいつは俺より先にその答えに辿り着いていて、俺をその道へと導いてくれていたのだと気づいた。