与えられた道導べは、必要無い。
俺自身が望んで今、ここに願うのだ。

「俺を、愛してくれていたのか……母さん!!」

俺は願いを言い放つ。そして、膨大なエピソードの中から、一際輝くモノに手を伸ばした。

──この記憶と感情に、俺の知りたい真実がある。

パァァッと柔らかくも強い光が、母の温もりのように俺を包む。もう子供と呼ぶには大人びた俺が、こんな事を思うのは少し気恥ずかしいが。

母に抱かれているようで、心地良いと感じた。まるで赤子に戻ったかのような気持ちで、俺は眠るように瞳を閉じる。すると、遠くで懐かしい声が聞こえた。

『深海さん、いつもすみません』

鈴の音が鳴るような透き通る声に、俺はハッと目を開ける。見渡せばそこは、まだ真新しいフカミ喫茶店のようだった。テーブル席に座っているのは、写真の中でしか記憶にない母さん。

母さんは朝から晩まで仕事で家を空けており、会話という会話をした記憶はほとんどない。マスターが俺の親代わりだった。

『お疲れのようですね、コーヒーをどうぞ』

マスターもまだ50代くらいに見えた。テーブルにコーヒを運ぶと、母さんは嬉しそうに顔を綻ばせる。

『ありがとうございます、あぁ、ホッとする……』

背中を丸めて、香りを楽しむようにカップへ顔を近づける母さんは、誰から見てもわかるくらいにやつれていた。