「あ、はい!」

拓海先輩が声をかけてくれて助かった。
私は一呼吸置いて静かに口を開く。

「あのですね……」

私は星空を見上げながら、夢で見た事を拓海先輩に話した。拓海先輩は静かに私の話に耳を傾けている。

「だから、何も残さなかったなんてそんな事無いんです」

全てを話し終えると、拓海先輩は黙り込んでしまった。私は星空から拓海先輩に視線を移す。

「むしろ、拓海先輩のためにこのペンダントと拓海先輩の事を私に託したんです。もう、自分が傍にいる事は出来ないからって……」

「……なら何故、俺はこのペンダントの鑑定ができない?あの人の一番傍にあったモノなのに」

お母さんを”あの人”と呼ぶのは、拓海先輩がお母さんを受け入れる事を無意識に恐れているからなのかもしれない。

まるで、泣き出してしまいそうな顔。いつもは強気でクールな拓海先輩が、お母さんの事となると臆病になる。
大切な人であるからこそ、心が弱くなるのだ。

「深海さんが美葉さんの遺品を鑑定できないのは、心がまだお母さんの存在を受け入れていないからだって言ってました」

「俺が……受け入れていないだと?」

拓海先輩の声が怒りに震えた。
何か気に障ってしまったのかもしれない。

でも、拓海先輩は今、変わらなくちゃいけない時だから、私はやっぱり続ける事にした。