「俺には何も残さない……いや、違うな。この変な力だけを残して勝手に逝った」

「何も残さないだなんて……」

──ならこのお店は?
これは、お母さんが拓海先輩のために残したものだ。

「しかも、このペンダントの記憶だけは見れないときた。あの人は、なんの想いも俺に抱いてなかったんだろ」

「そんな事……!」

「無いなんて、どうしてお前が言いきれる!?」

「っ……それは!」

初めて、拓海先輩の激しい感情を見た気がした。
行き場のない怒りと悲しみが私にぶつけられる。

そうだ、証拠がない。私が拓海先輩に言えるのは全て想像だけなのだ。そんなのただの気休めで、拓海先輩は納得しないだろう。でも私には……あんなに優しそうに笑う人が、子供を愛さない人には到底思えないのだ。

「……悪い、少し頭を冷やしてくる」

「なら私も……っ」

「一人にしてくれ」

追いかけようとした私は、拓海先輩の言葉に動けなくなった。何も言えぬまま、その背中を見送る。ガチャンッと閉まる扉の音がやけに大きく聞こえて、悲しくなった。すると、空くんが私の隣に立って袖を掴んでくる。

「拓海、行っちゃったね」

「うん……」

その場から動けず、私は閉じた扉を呆然と見つめていた。