「こんな事って……」

──まさか美葉さんが亡くなっていたなんて……。

あの人が誰なのか、何故ペンダントを預けたのが私だったのか、あの言葉の意味を、あの儚い微笑みの理由を聞きたいと思っていたのに。

もう、言葉を交わす事ができない距離に、あの人は逝ってしまったんだ。その事がショックでたまらない。

「どうりで、クラウンが飛びつくわけです」

「深海さん……」

深海さんは私たちの所へやってくると、クラウンの前にしゃがみ込む。そして、その毛並みを優しく撫でていた。

「クラウンには、来春さんのペンダントが美葉さんの物だとわかっていたのですね」

「ワンッ!」

クラウンが肯定するように吠える。

「そうですね、肌身離さず、着けておりましたし」

──深海さんの言う通りだとしたら……。
私にはやっぱり分からない事があった。

「どうして私なの、普通だったらこれは、拓海先輩に残そうって思うはずですよね」

特に、肌身離さず身に着けていた物ならなおさら、自分の子供に自分の代わりにと渡さないだろうか。

「あの人の考えている事は、俺には理解できない」

拓海先輩は感情を押し殺すように、冷たく言い放つ。お母さんはこのお店を拓海先輩に残すために必死に働いていた。

そのせいで拓海先輩には、お母さんとの思い出がほとんど無い。だから尚更、どうして私なのかがわからない。