──あぁ、頭が痛い。
意識がどこか遠くへ引っ張られる感覚に襲われた。

「来春、どうしたの、顔色悪い」

私の傍にやって来た空くんが、心配そうに顔を覗き込んでくる。心配をかけたくなくて、笑顔を作りたいのにうまく出来なかった。

「どっか痛い?」

「うん、ちょっと頭痛くて……」

どうして今、思い出したりなんかしたのだろう。でもそうだ、あの人はあの時……私に名乗ったはずだった。

──思い出せ、確か……そう。
──私は美葉……と。

その瞬間に、靄のかかっていた視界が、急激に澄み渡っていくのを感じる。

「待って、そんな事ってあるの……?」

陽だまりに霞むような視界の中、長い黒髪をサラサラと風に揺らしている、綺麗な女の人の姿が瞼の裏に浮かんだ。

「……信じられない」

思い出した途端、動揺して私はふらついてしまう。

「危ない!」

そんな私を拓海先輩が肩を掴んで支えてくれた。

「来春、お前どうし……」

「拓海先輩、どうしよう……」

私の顔を覗き込んでくる、心配そうな拓海先輩の瞳を見つめ返す。その間も私の心臓は震えていた。

「私どうして今まで忘れてたんだろう……」

「話が見えん」

「み、美葉さんなんです。病院でこのペンダントを私に渡したの……っ」

間違いない、あの人はそう名乗った。みんながこのペンダントに見覚えがあるのも当然だ。だって、本人の物なんだから。

「そんな、馬鹿な……嘘、だろう」

「私だって信じられないっ。あの、美葉さんの入院していた病院って……」

未だに信じられない私は、一応自分が入院していた病院の名前を言ってみる。

「母さんが入院していたのは……」

すると、驚くべき事に拓海先輩も、私が入院していた病院と同じ名前を口にした。