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9月。日曜日の朝、フカミ喫茶店へ向かう途中、私は空気が乾いた透明感のある秋天を見上げる。夏休みも終わり、先週から新学期が始まった。
「思い返してみれば、すごい偶然だったなぁ」
ふらりと迷い込んだこじまりとした路地裏で、私はクラウンと衝突し、ペンダントを壊され、深海さんにここへ連れてこられたのだ。
「フカミ喫茶店」
初めは不思議の国に来たみたいな感覚だったのに、目の前の赤茶色のレンガの外装、レトロなガス灯を見るとなんだか帰ってきたなぁと感じる。
──カランッ、カランッ。
この音も、入った瞬間から香る深海さんの深みのあるコーヒーの香りも、全てが今の私の日常だ。
「おはようございます!」
そして、返事が返ってくるのは、もちろん。
「おはようございます、来春さん」
……深海さんだけなのだが。拓海先輩は読書、空くんは工具のお手入れ、私の事なんて眼中に無し!このパターンにもいい加減慣れたものだ。