「来春、今ケーキ食べてるから離れて」
すると悲しい事に、グイッと押しのけられた。
それにめげること無く、私は隠していたプレゼントを差し出す。
「これプレゼントね!早く食べて、開けて開けて!」
「わかったから来春、子供みたい」
空くんとジャれていると、クラウンが扉に向かって「ワンッ」と吠える。そのすぐ後にチャイムが鳴り、『宅急便でーす』と声が聞こえた。
「俺が出る」
「あ、はい!」
拓海先輩が扉の方へ歩いて行き、荷物を受け取るとまたこちらに戻ってきた。
「空」
「え?」
迷わず空くんの目の前に立って、拓海先輩が珍しく小さく笑って見せた。
「良かったな」
柔らかい声音でそう言って、空くんに拓海先輩が小包を渡す。そこには、『HappyBirthday 空』というメッセージカードとともに贈られた、工具のセットがあった。その宛先はもちろん、空くんのご両親からだ。
「これ……どうして、今まで忘れてたくせに……」
「空くん、ご両親は空くんの事を忘れた事はありませんでしたよ」
マスターが、紅茶をテーブルに運びながらそう言った。
「空くんには秘密にしてくれと言われていたのですが……。ご両親は誕生日になると決まって、空くんに工具を贈ってくれています」
「え、でもあれはマスターが買ってきてくれたんじゃ……」
「お二人が忙しく、空くんの好きなものがわからないからと、私にお金を預けていたのです。私は代行をしたまで」
──そっか、空くんのご両親はお医者さんなんだっけ。
シッター雇うくらいだし、本当に忙しいんだろう。
……空くんを孤独にしてしまうほどに。