「例の件は順調か」
完全に時雨先輩の姿が見えなくなると、一緒に見送りをしていた拓海先輩がチラリと私を見て尋ねてくる。
「例の件……あ!」
それでピンと来る。そう、実は空くんに内緒で企んでいる事があるのだ。決行はついに明日に迫っていた。
「昨日のうちに飾りつけの道具も、プレゼントも買えましたし、ケーキは深海さんと手作りするので順調です!」
「そうか」
「空くん、喜んでくたらいいなぁ」
空くんの笑顔を思い浮かべて、私は顔をほころばせる。
「まるで太陽だな」
「……え?」
「いや、空は喜ぶだろ」
そう言って扉の取手に手をかけると、拓海先輩は私を振り返った。
「戻るぞ」
「あ……」
出会ったばかりの頃なら、こうして私を振り返って声をかけてくれる事なんて無かっただろう。でも、今の拓海先輩は私を傍に置く事を許してくれている。
それが嬉しくて「はい!」と出席を取るように元気よく返事をして駆け寄れば、拓海先輩の呆れた顔が私を見下ろした。その表情さえ、可愛いと思えてしまう私は、重症だ。