「あ!本当に動いたっ」

ただの箱に見えたのに、こんな仕掛けがあったなんて。単純な言葉で申し訳ないけれど、昔の人って考える事がすごい。

「いや、時雨行き過ぎ、5mはもう2m手前」

「は、はい!」

──細か!

しかも時雨先輩、空くんにまで敬語になってる。
空くん、こういう時スパルタだからな……。
私は苦笑いしながら、2人を見守った。

「全員そろってさぁ左」

「全員……全面の板を左に動かせ」

「もう一度全員さぁ右に」

「全面の板を右に」

箱が箱らしからぬ形になったり戻ったり。仕掛けが少しずつ解けていく。この箱の中に眠るモノ、それは何なんだろうと胸が高鳴るのは、秘密箱のからくりが童心を思い出させるからだろう。

「秘密のお箱がさぁ開くよ」

最後、ゆっくりと前面の板が右にパカッとズレた時、中に2つの光が見えた。

「これ……」

時雨先輩が、目と一緒に心まで奪われたように呟く。
時雨先輩が見つめるのは、ピンクの透き通る輝きを放つシルバーリングが2つ。それは支え合うように、番であるように重なっていた。

「……ピンクダイヤモンドだ」

そう言って時雨先輩は、指輪を摘まんで持ち上げると、太陽の光に透かした。光が屈折し合い、キラキラと美しさを増すその指輪は、どこからどう見ても結婚指輪だった。