「来春さんは名前の通り、春を連れてくるみたいに周りの人の心を温かくするのですよ」
「そ、そんな大層な事してませんって!」
「ですが、時雨様が拓海くんの言葉を受け入れられたのは、来春さんが説得したからではありませんか?」
「私はただ、拓海先輩の言葉を伝えただけですよ」
そう、特別私が何かしたわけじゃない。時雨先輩はもうとっくに気づいていたのだ。大切なモノが何か、拓海先輩が言いたい事は何かを。
「ただ、孤独が怖かっただけなんです」
人間は弱い生き物だと、今までの依頼で何度も気づかされた。でもそのたびにこうも思う。
「偽りの居場所でも、心は騙せるから。だけど、それじゃあ本当の意味では救われないって、拓海先輩が言ってくれたから、だから時雨先輩は変われたんです」
乗り越える強さもまた、人間は持っているのだと。
「そう言えるから、お前はすごいんだろ」
「……え?」
──拓海先輩が、私を褒めた……?
驚きに目を剥きそうになる私を、拓海先輩はジトリと睨む。
「おい、なんだその顔は」
「なんだって、そっちが何事ですか!?」
──やばい、やばいやばいっ。
不意打ちで優しくされると、こちらの心臓の準備はできてないので、かなりの衝撃になる。