「……これは、俺の手には余る。他を当たれと追い返していたところだ」

「え、拓海先輩、急に何言いだして……あ」

──そういう事か。

拓海先輩は時雨先輩の宝物を守るために、このままシラを切るつもりだという事が私にもわかった。

「君、さっきは啖呵切っていたくせにそれは無いだろう!」

「そんな事言ったか?」

「とぼけるな!全く、不愉快だ。金は払わないからな!帰るぞ時雨!」

踵を返す則之さんを見計らって、私は時雨先輩の服の裾を軽く引く。

「明日、また来てください」

「あっ……」

時雨先輩はその意味を悟ったのか、無言で頷いた。
こうして、店内にはいつもの4人が取り残される。

「拓海先輩」

「なんだ」

「ナイスです!」

グッと親指を立てて見せれば、「……あっそ」と興味なさげにそっぽを向く拓海先輩。

耳が赤いところを見ると照れ隠しだとすぐにわかった。

「今までの拓海なら、業務外だって、言ってたと思う」

「本当、来春さんのおかげですね」

空くんと深海さんが私たちを見て笑う。

──え、私のおかげ?

そんな風に考えた事、なかった。もし拓海先輩が変わったのだとしたら、それはきっと拓海先輩が変わろうと努力したからだと私は思うからだ。