『なら、私がいるよ』

何か力になれたらって、私はあの人の前に立った。

長い黒髪がサラサラと風に揺れていて、とっても綺麗だと思ったのを今でも覚えている。ただ、綺麗だなと思うのに、顔はぼんやりとしか思い出せない。

こんな顔をしていたなって事以外は靄がかかり、輪郭を歪めてしまうかのように、曖昧にしか記憶に残っていないのだ。

『あなたは?』

『私は、来春っていうの!!』

『そう、とってもいい名前ね』

この時、あの人は名前を名乗っていたような気がするけどやっぱり思い出せない。

『これを、預かってほしいの』

私はこの後肺炎をぶり返してしまって、高熱の影響か記憶がところどころ抜けてしまっていた。あの時の会話は私にとって大切なモノだったはずなのに、今では飛び飛びにしか思い出せない。

あの人は自分の首からペンダントを外すと、代わりに私の首にかけた。

綺麗な黄緑色の石。でも、どうしてこれを私に預けたのか、理由はわからない。

『あなたは優しい女の子だから、この出会いが私の思い描く運命となり、救いとなりますように』

あの人と会ったのはこれが初めてで、これが最後だった。

あの人はそれ以上何も言わずに、私の前から去った。儚げな微笑みと謎の言葉を残して。