「そうか、そういう事だったのか……」

時雨先輩は拓海先輩の言葉の意味に気づいたようだった。泣き笑いで、箱を両手で包み込む。

「簡単に手放せるくらいのモノなら……か」

「それ、さっき拓海先輩が言った言葉ですね」

「拓海さんに怒られた理由がわかったよ。俺は守るべきもの、大切にすべきモノを見誤っていたみたいだ」

困ったように笑った時雨先輩が「よっと」と声を出して立ち上がる。そして、私に手を差し出した時雨さんの顔には、偽りのない笑顔が浮かんでいた。

「ありがとう、来春ちゃん。俺、もう一度拓海さんに頼んでみるよ!」

「あ……」

屈託ないこの笑顔が、本当の時雨先輩なのだ。それが見られたという事はきっと、時雨先輩は一歩前に進んだのだと思う。

「ふふっ、お供します!」

「ありがとう」

その手を取って立ち上がると、気持ちを新たにして私達はもう一度、喫茶店の中へと戻るのだった。



「ただ今戻りましたーっ!」

盛大に叫んで店内に入る。すると、拓海先輩が私の前にやってきて、「煩い」と私の頭を本で叩いた。