「俺は、ただ無事に帰ってきてくれれば良かったんだ」

──ただ、あなた達に帰ってきて欲しかった。

時雨先輩の言葉に、自分の心の声が重なる。

「こんなモノ、残されたって嬉しくない。俺はっ……俺にとって大切なのは父さんと母さんだ!!」

気持ちをぶつけるように、時雨先輩が叫ぶ。

「じゃあ、そんな大切な人が残したコレは、必要ないんですか?」

時雨先輩が大事そうに持っている箱を指さす。そういう訳じゃないのは、百も承知で尋ねるのだ。ただ、気づいて欲しい、その一心で。

「そういうわけじゃっ」

「でも、今の居場所を守るために手放すんだって、さっき時雨先輩は言いました」

「仕方ない、じゃないかっ……」

泣き出しそうな顔に私は深く、長く息を吐いた。一番悲しいのは時雨先輩なのに、私が泣くなんておかしい。だから必死に我慢する、だけど唇が震える。

「時雨先輩を愛してくれたのは……誰ですか?」

「それは……父さんと母さんだ……」

「大切なモノに、時雨先輩は気づいているじゃないですか」

だって時雨先輩は、愛されてた。誰が一番の理解者だったのか、守るべきものは何なのか。それさえ見失わなければ答えはわかるはず。