「時雨くん、どこですかーっ!」

お店を出て、とりあえず叫んでみる。出てきたは良いものの、時雨くんがどこに行ったのかまで考えていなかったのだ。どうしたものかと悩んでいると……。

「は、はい!」

とわりと近くで返事が返ってきた。声が聞こえた方を向くと、喫茶店のレンガの壁を背に時雨くんが座り込んでいる。

「あ」

これから、時雨さんをどう探そうとか、何も考えてなかった私には棚からぼた餅みたいなラッキーだと思った。

「まさか、こんなに早く見つかるとは思わなかったです」

「ははっ、あんな事言っといて、俺……帰る場所なんて本当は無いじゃんって、気づいちゃって」

「時雨くん……」

俯いて自嘲的に笑う時雨くん。その隣に一緒になって座ろうと腰をかがめた時だ。

「あ、服汚れちゃいますよ」

と、自分の着てきた上着を脱いで、汚れるのも構わず地面に敷いてくれた。

「……え?」

「あ、ほらここ地面汚いし……」

変人ばかり集まる喫茶店にはいない、まともな人。あの深海さんでさえ、少し癖がある。だからか、調子が狂うのだ。そして何故だか、普通の人に会えたという喜びが湧き上がってくる。