「優しい人は、手が冷たいんですよ、知ってました?」
自分の意見を正しいと信じながら、こんなにも震えているんだ。拓海先輩は、誰よりも繊細な人だと思う。
「そんなの、迷信だろ」
「でも、実際そうですし、私は信じてますよ」
「ったく……勝手にしろ」
照れくさそうにしながらも、私の手を振り払おうとはしなかった。
「はい!なので、勝手に時雨くんを説得しに行ってきます!」
名残惜しくもパッと手を離して、私は扉へと向かう。
「は?」
背中越しに、拓海先輩の呆気にとられたような声が聞こえた。取っ手に手をかけて、少し開いた扉から、オレンジの光が差し込む。
あぁ、もう夕方なんだ”と思いながら、拓海先輩を振り返った。
「大丈夫ですよ、拓海先輩が怖くて信じられないものは、私が証明しますから!」
そう、何度でも、あなたに信じてもらえるまで。
飛び出す間際、「来春」と、拓海先輩に名前を呼ばれた気がした。
だからなおさら、頑張らなきゃと力強く地面を蹴る。それだけで、底なしの力が湧いてくるみたい。
足りないものは補い合えばいい。ドラマで、『人という字は』なんてやっていたけれど、『人』という字のように、互いに寄りかかって人は生きていくものだから。
待っててくださいね、私が拓海先輩の気持ちを伝えますから。