「なら、帰れ」
「え……」
「これ以上、協力するつもりは無い」
拓海先輩はきっぱり断ると、席を立つ。
「な、何でですか!?俺はこのままじゃ帰れません!!」
「簡単に手放せるくらいのモノなら、俺の力なんか必要ないだろ。箱を叩き割るでもなんでもして、あの義父に差し出せ。さぞ、喜んでお前を褒めるだろうな、上っ面の、偽物の言葉で」
「簡単に手放せるだと!?あなたに、俺の気持ちなんてわかりませんよ!!」
時雨くんが、血を吐きそうなほどに叫ぶ。痛いという気持ちが、肌に刺さるみたいに感じた。
「いい子で、従順でいないと、捨てられるかもしれないんですよ!!そんな惨めな孤独を、あなたは知らないからっ……」
「わかりたくないな、お前の気持ちなんて」
「っく……失礼しました、帰ります」
時雨くんは感情を押し殺すようにそう言って、勢いよく席を立つと、箱を手に喫茶店を出て行ってしまう。
「もう、拓海先輩ってば」
「……責めたきゃ責めろ」
ぶっきらぼうに言いながら、落とされた視線は寂しげで。あぁ、やっぱりこの人も、傷を抱えているのだと胸が締め付けられる。
昔の私なら、何も知らずに責めていただろう。だけど今は、その言葉がどんな想いで、どんな過去から出た言葉なのか、わかるから……。