「店も宝石も全て、売られてしまったので」
「そんなっ……酷い!!」
だって、その財産は時雨くんに残されるべきものだ。
なのに売られたって……そんな事って許されるのと、行き場のない怒りが沸いてくる。
「でも、俺は施設の子供だから。則之さんの言う通りにしないとまた孤児になります」
「……だから、則之さんの言う通りにしてるの?時雨くんの意思は尊重されないの?」
初めて会った時に時雨くんに感じた印象。この世は理不尽で溢れている。それをこれでもかというほどに知っている時雨くんから感じたのはなぜか、明るさだった。
だけど、その笑顔の裏にあるのは、深い深い闇。見かけでは、抱えるモノの尺度は図れないのだと思った。
「つまり、あの父親が施設でお前を引き取ったのは……」
「お金……のためでしょうね」
──やっぱり、そうだったんだ。
両親を失っただけででなく、ここまで人をどん底に落とすのか、神様は。そう誰かを責めずにはいられないほどに、時雨くんの生きる道はあまりにも棘の道すぎる。
「この箱が開いたとして、中身が高値のモノだったとする。それをあの義父に渡せと言われたらどうするつもりだ」
「……渡すと思います。それで、あの場所にいられるのなら」
拓海先輩の言葉に本当にはそうしたくない、そんな顔をしているのに、そうするしかないのだと時雨くんは言う。
形見も、売られちゃうかもしれない。
──それでも、時雨くんは手放すというの?