「……え?」

「私にわかる範囲ですが、話しますから!」

「あ……」

拓海先輩は見てわかるほど、ホッとしたような顔をした。クールで無口、なのに今はこんなに迷子みたいな顔している。

──なんか、この人ってほっとけない。
拓海先輩を見ていると、そんな母性本能が駆り立てられる。

「って言っても、私もよく覚えてなくて……」


確かに覚えてるのは、過ごしやすい秋風の吹く季節の事。そっと瞼を閉じれば蘇る、あの人の姿と共に過ごした短くも濃い時間に、私は思いを馳せた。

***
小学3年生の秋、風邪をこじらせた私はマヌケにも肺炎になって病院に入院していた。

そんな時だ、あの人と出会ったのは。

緑茂る、病院の中庭。丸まるように前かがみにベンチに腰掛けるその背中が、あまりに愁いを帯びていたからか、つい。

『なにか、悩み事があるの?』

そう声をかけていた。あの人は少し疲れた顔で私を振り返る。