「知っていますか、毒って身近なモノで作れるのですよ」

「……え?」

今、深海さんの口から聞いてはいけない、言葉を聞いた気がした。

──いやまさか、深海さんに限って毒とか……毒とか盛るわけないじゃん。

私は聞き間違いだと自分を説得する。

「蜂蜜です、蜂蜜を加熱すると、アーマという毒素に変化するのですよ」

カウンターにいたはずの深海さんが”笑顔”で紅茶を運んで来た。私は言葉を失って、白い湯気を立たせた紅茶が則之さんに差し出されるまでを目で追う。

「熱々の蜂蜜ミルクコーヒーです、召し上がれ」

──怖っ!死ぬ!

わざわざ熱々のと言うあたり、悪意がある。

「の、飲めるか!!」

怯えたように湯気立つコーヒーから距離を取る則之さんに、少しだけ同情した。深海さんの笑顔の圧力がすごい。深海さんのコーヒーは世界一だけど、これは飲んだら最後、永遠の眠りにつきそうだ。

「それに、俺の依頼人はそこの時雨だ。お前じゃない、下がっていろ」

「なんなんだこの店はっ、帰るぞ時雨!」

怒ったように荒々しく立ち上がった則之さんは、座っている時雨くんを見下ろした。だけど、時雨くんは動かなかった。