「……どういうつもりか、と言ったな」

恐る恐る目を開くと、拓海先輩が則之さんの振り上げた手首を掴んでいた。

──もしかして、助けてくれた?

そんな拓海先輩の行動に、胸がキュンとしてしまう。

「それは、こっちのセリフだ。この手の意味を説明してもらおうか」

いつも以上に、背筋が凍りそうなほど冷たい声で拓海先輩が言う。

「こ、これは、その女がっ」

「客だろうが、店員に手を上げていい理由は微塵も無いと思うが」

「それはそうだけ……痛たたたっ、は、離せ!!」

拓海先輩が掴んだ手に力を込めると、則之さんの顔は痛みと恐怖にどんどん歪んでいった。

「まだわからないか、俺は心底腹が立っている」

「言っとくけど、僕もこれで殴りたい気分」

空くんが掲げるは、どこからか取り出したスパナだ。

──それで撲殺つもり?

いい加減、庇われている私が仲裁に入るはめになりそうだと頭を悩ませていると、ふとうちの救世主の存在を思い出す。

「あ、そうだ!」

最後の頼みの綱、深海さんがいるではないか。私は縋るような思いで、カウンターを振り返った。