「……あなたの言ったなにげない一言が、見えない傷跡を深く抉る事だってあるんです」

空くんも拓海先輩も、傷つく事に慣れすぎている。とても深い悲しみを知っているから、普通なら言われて痛い言葉も、これくらいなら軽いと麻痺してしまう。

でも本当は痛いはずだ、泣きたいはずだ。見ないふりをしているだけで、自分を卑下してしまうほどに、本当は……傷ついているのに。

「あなたの言葉には、なんの責任もない!!」

私も、知らずに拓海先輩を傷つけた事があった。
”気持ちがわからない、冷たい人だ”と。

「知らないのはしょうがない、でも……それを理由にしちゃいけない。だから、私達の言葉は、常に誰かを傷つける刃かもしれないって、忘れちゃいけないっ」

そう、これは自分に向けた言葉でもある。これからは私が、2人を守るのだと、決めたのだから。

「お前、頭おかしいのか!?」

だけど、伝わらない。

「客に怒鳴るなんて、どういうつもりだ!」

則之さんが私に向かって手を振り上げた。それを避けるだけの余裕は今の私にはなくて、ギュッと目を瞑る。

「ワウッ!!」

クラウンが私のために怒ってくれてるな。そんな事をどこか他人事のように考える。でも、いつまでたっても訪れるはずの痛みは来ず、代わりにパシンッと乾いた音が耳に届いた。