『無茶言うなよ、もう忘れたって!』

『よーし、耳がタコになるまで、父さんが歌ってやるからな、はは!』

『って、頭触るなよっ』

『横横、板は五、下に~、いいじゃないか、可愛がってやってんだぞ』

『余計なお世話だ!さっさと、仕事の準備しろよな!明日から、上海に行くんだろう?』

どこからどう見ても、仲のいい親子だった。恐らく、飛行機事故で両親を失うまでは、誰もが羨む幸せな家族だったのだろう。だが今は幸せな家庭とは言えなさそうだった。あの義父からは欲にまみれた嫌な匂いが、プンプンする。

『あぁ、なら宝石の仕入れのついでに、頭がよくなる漢方でも買ってきてやるぞ~』

グリグリと時雨の頭を拳で挟む父親。

宝石の仕入れ……時雨の相続する遺産は大きいだろう。

──そして、それは誰に受け継がれる?

すぐに、だから時雨を引き取ったのかと、閃いた。そう考えると、あの箱の中身は値の張るモノだと容易に想像がつく。あの義父の必死さにも、納得がいった。

『なっ、そんなバカじゃない!』

『ふふっ、時雨はお父さんにそっくりよね』

この光景が時雨に訪れる未来を知っているからだろう、なぜだか切ないものに見えてならなかった。幸せと悲しみの対比、それはあまりにも……残酷だ。