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いつものように、俺は依頼人のエピソードに触れる。
すると、視覚より先に聴覚に働きかける何か。

『横横、板は五、下に』

──歌のようなものが聞こえた。

光が晴れて視界がハッキリすると、夕日でセピア色に染まる縁側で女性と今より少しばかり幼い時雨がこちらに背を向けて座っているのが見える。

『全員そろってさぁ左』

聞いた事が無い歌だと思った。
でも曲調は昔のわらべ歌のようで、すぐに耳に馴染む。

『もう一度全員さぁ右に』

それを後押しするように、カナカナカナと庭の木にとまっているのだろうひぐらしも歌う。ひぐらしは朝と日没に鳴くから、日没が近いのだろうと思った。

『秘密のお箱がさぁ開くよ』

『母さん、それ何の歌?』

『これはね、時雨と、時雨の大切な人のために贈る鍵なの』

『母さん、俺、歌の事を聞いたんだよ?』

『えぇ、だから答えてるじゃない』

意味深に笑う母親に、時雨は困ったように頭を掻く。

『時雨、ちゃんと母さんの歌、覚えとくんだぞ』

そんな時雨の頭をひょっこり現れた父親がワシャワシャと撫でた。