「わ、私は、子供のためを思ってここへ来たんだ!!俺は何も知らな……」
「……まあいい」
則之さんが何かを隠しているのは、ムキになるあたり誰から見てもすぐにわかった。則之さんの言い分に、拓海先輩は興味を失ったのかシカトする。
「俺がすべきことは、たった一つだ」
拓海先輩の視線は静かに時雨くんの瞳の奥を覗き込む。真意を見透かすような黒曜の瞳に、時雨くんは緊張している様子だった。
「お前の知りたい事は、箱の開け方でいいな」
「は、はい……」
拓海先輩に言われ、時雨くんがコクリと首を縦に振る。
「了解した、おい、それを寄越せ」
相変わらずの横暴な物言いで、拓海先輩は則之さんの手から箱を奪うと両手の上に乗せる。
「チッ、態度悪いな」
則之さんが拓海先輩を睨んで吐き捨てる様に言う。それを痛くも痒くも感じていない拓海先輩が、ついに冷徹な一言を放った。
「ピーチクパーチク煩い、黙ってろ。それが出来ないなら即刻、店から出ていけ」
則之さんを一度も眼中に入れる事無く言う。
「なっ……なんだと!?」
口を金魚みたいにパクパクさせる則之さんに、私は心の中でナイス!とガッツポーズをした。
お客さんへの態度としてはかなりのマイナス点だが、空くんを怖がらせた借りもあったので、拓海先輩のブリザード対応にスッキリする。
「君、私たちは客で……っ」
また文句を言いそうだったので「お客様、鑑定中は静かに!」と拓海先輩を真似て、私もブリザード対応を御見舞してあげる事にした。
「なにっ!?」
店員の信じられない態度に目を白黒させる則之さん。
なんか私、だんだん拓海先輩みたいになってきたかも。
「いつかブリザード光線、私も目から出せるようになるかな……」
なんて、則之さんの抗議も完全にフェードアウトして、そんな事を考えた。
不意に、空気が静かに澄んでいくのを肌に感じて、私は反射的に拓海先輩の方を見る。拓海先輩はすでに、箱を手にして神経を集中させている所だった。
そして、始まりの声が喫茶店に響く。
「鑑定を、始める」