「……いえ、この箱、開けられますか?」
時雨くんは首を横に振って笑った。その顔を気になる事でもあるのか、拓海先輩はじっと見つめる。でもすぐに視線を外して、カウンターに座っていた空くんを振り返った。
「空」
「わかった」
──え?
2人の間に会話らしい会話は無かった。はずなのに、何故か以心伝心している。もはや、引きこもりにしかわからないシンクロ率だ。
「僕がピッキングしてみる」
そう言って、部屋に工具を取りに行った。
「空くん、ピッキングまで出来たんだ……」
「空くんに出来無い事はありませんからね」
と、マスターが答える。
──それにしても、度が過ぎてませんか。
「あ、でも、目覚まし時計の改造とかしてたって言ってたし、出来ても不思議じゃ無いのか……?」
私は首を捻らせながら、ああでも無い、こうでも無いと自問自答する。
「貸して」
「あ、はい!」
空くんが工具を手に戻ってくると、さっそく時雨くんから箱を受け取り、鍵穴に細い棒みたいなものを入れてカチカチと動かし始めた。
「……うん?」
作業をしながら空くんはふいに首を傾げる。