「これ、両親の形見なんです。でも、鍵なんて預かった覚えがなくて、どうにかして開けたいんですが……」

「両親?」

そこにいる人がてっきりお父さんだと思った私は、つい声を上げてしまう。

"いちいち煩い"、そんな意味のこもったお決まりのブリザード光線が、拓海先輩から放たれたのは言うまでもない。

「あぁ、私は時雨の義父でね。高校1年生の時施設から引き取ったんだ」

「あぁ、そうだったんですね」

人が好さそうに笑う則之さんに、笑顔を返そうとした時だった。

「…………」

無言で俯く、時雨くんに気づいたのは。

──あれ、どうして……?

今の間に時雨くんの気に障るような会話があっただろうかと考える。

「本当の両親は時雨が中学1年生の時に飛行機事故で亡くなったんです。その形見がこれでして……どうか時雨のお願いを叶えてやってください」

時雨くんのために頭を下げる則之さんは、どこからどう見てもいいお父さんだった。時雨くんの事、本当に大切に思ってるんだなと思う。

時雨くんはまだ、新しい家族に慣れないのかもしれない。本当の両親の死を思い出して、状況を受け入れられない故の表情だったのかもしれないと思った。

「…………」

「おい、何か言いたい事があるのか」

拓海先輩には時雨くんが何か言いたそうに見えたのだろうか。黙ったままの時雨くんに、拓海先輩が珍しく依頼以外の話題で声をかけた。