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「それで、依頼は」
拓海先輩が呼びに来たのは、お客さんが来た事を知らせるためだった。
テーブル席には40代くらいの男性と私達と同い年くらいの男の子が横並びに座っており、その向かいに拓海先輩が腰掛けている。
飲み物はすでに深海さんが出してくれていて、私は深海さんと一緒にカウンター向こうのキッチンから、その様子を見守っていた。
「ワフッ」
「静かにしてないとダメだよ、クラウン」
吠えたクラウンを空くんが軽く叱ると、カウンター席に座る空くんの足にクラウンが擦り寄った。
──クラウンと空くんのツーショット、かわゆい。
そんな場違いな事を考えてニヤニヤしていると「依頼人はお前か」と拓海先輩は年配の男性に声をかけた。
「あ、いえ……私は、時雨(しぐれ)の付き添いです」
年配の男性が拓海先輩に向かって違うと首を横に振った。
「すみません、依頼したいのは則之(のりゆき)さんじゃなくて俺です!」
時雨と呼ばれた男の子の方が慌てて手を挙げた。
時雨くんはハキハキとしていて、浮かぶ笑顔に明るい印象を受ける。
でも、この2人は親子だろうか。
それにしてもどこか他人行儀な気がした。
「これ、なんですけど」
時雨くんは手のひらに乗るくらいの、赤麻柄の和風な箱を机の上に置いた。和風なのにアンティーク調の鍵穴がある。何だか不思議なデザインだ。