「え、空くん明後日誕生日なの!?」

それは、夏休みも中盤にさしかかった8月中旬のお昼頃のことだった。

2階の空くんの部屋、兼作業室に私の声が響く。
6帖の部屋に、壁一面工具の山。
いつ崩れ落ちてくるかわからないので、今度こっそり掃除してしまおうと作戦を練っているところだった。

リペア作業をしている空くんに紅茶を持ってきた私は、窓際にぴったり付けられた机にカップを置くと、なんとなく空くんと立ち話をした。

その会話の中で、空くんが年齢の割にはしっかりしているという話になり、明後日に9歳の誕生日を迎えることを知ったのだ。

「なんで言わないの!」

「別に、言うほどの事じゃないし」

何事もなかったかのように工具の手入れを始める空くんに叫んでしまう。

「いやいや、盛大にアピールしないと!」

私なんか、誕生日の1ヶ月前からソワソワしてるのに。って、私の話はいいとして。

空くんは、あまり自分のことを話さない。そんな事わかっていたはずなのに、うっかりしていたなと頭を抱える。
こんなことになるなら、全員の誕生日を前もって調査しておくべきだった。

──空くんへのプレゼント何にしよう。

空くんは精神年齢がかなり高いので、普通の小学3年生が貰って喜びそうなプレゼントでは通用しない気がする。
出来れば誕生日会話も開催したいのだが、当日は家でもやるだろうし、無理だろうなぁと思いつつ、遠回しに聞いてみる。

「じゃあ、誕生日の日はお家でお祝い?」

「そんなのした事ない」

「……え?」

歳を取れば、自然と無くなるであろう習慣なのかもしれない。でも、大々的でなくともプレゼントをあげたり、なんらかの形で誕生日は祝うものだと思っていた私には、少し衝撃だった。

空くんは、祝われたりする経験がないのだろうか。そう思ったら、やるせない悲しみに胸の内を支配された。