『そして今、大切に想う人と残りの時間を一緒に刻んでいって欲しい。だから東吾、お願いね』

『おばあちゃん……わかった』

東吾さんは雪さんから壊れ物を扱うように優しく鍵を受け取る。想いが、受け継がれる。その瞬間は厳かで、俺は大切な一瞬を目の当たりにしたのだと思った。

『壮吾さんは亡くなるまで、この鍵の事を追求したりしなかったの。だけどね、気づいていたと思うわ』

『そうなの?』

『前に言われたのよ、私の過去も含めて愛していると。だから私は、壮吾さんと人生を歩めて幸せだった。進さんと刻んだ時間も全てが私にとってかけがえのない宝物なの』

本当に幸せだったのだ。
その笑顔は、晴れ晴れしいほどに眩しい。

『ずっと、進さんの幸せを願ってる』

その声は部屋に差し込む昼下がりの太陽の光の中へ、静かに溶けていった。