『でもね、いつか夢を叶えて、あの人が迎えに来てくれたらって懐中時計を託した』

『でも、おばあちゃんは……』

『そうね、壮吾さんと一緒になった。後悔はしてないわ、私が選んだ事だから』

今もこうして鍵を持ち続けていた所を見ると、待てなかったわけじゃないんだろう。それ以上に、添い遂げたい人が現れてしまった。そして、選択したのだ。

人は限りある命を持つ生き物だから、その中で誰しも幸せになりたいと願う。それは他人が間違ってるとか、どうこう言えるモノではない。

『でも、進さんの事は今でも待ち続けてるのよ。ただ、私に残された時間はもう……。だから、東吾にお願いがあるの』

『まさか……』

東吾さんは自分に託される大きなものを悟ったようだった。

『もし進さんが訪ねて来たら、この鍵を渡してほしいのよ。それぞれの道を歩んでしまった私達だけれど、あの日の想いは褪せる事なくこの胸に残ってる』

雪さんはそっと胸をおさえて目を閉じると、遠い日の思い出に心を馳せるように言った。

『でも、あの日々の思い出が、想いが……進さんを後悔で苦しめていたとしたら、止まったままの時間を動かしてあげたい』

──そうか、雪さんは気づいてたのか。

マスターが雪さんより夢を選んだ事、会いに来なかった時間を後悔するかもしれないという事に。