次に目を開くと、白に統一された無機質な空間に俺はいた。
──ここは……どこだ?
辺りを見渡すとベッドに『前園 雪』というネームが付いており、そこが病室の個室だとわかる。
『おばあちゃん、東吾だよ』
『おや、東吾、いらっしゃい』
少しだけギャッチアップされたベットに横になっているのは、マスターくらいの女性だった。
あれが恐らく、雪さんだと思った。長い白髪を横で三つ編みに結い、優しい眼差しで東吾さんを見つめている。
東吾さんも、今より少し若い気がした。
『東吾、私はもう長くないと思うの』
『おばあちゃん……そんな事言わないで、これから一緒に旅行とか行こうよ』
部屋には2人だけ。雪さんはゆっくりと窓の外に広がる青空を見上げた。
窓は開いており、ここは2階だろうか、青葉をつけた木々の頭が見え、そこから降っては止むを繰り返す、蝉時雨が聞こえてくる。
『東吾、私にはね、誰にも話していない秘密があるの』
『秘密って……おじいちゃんにも?』
その言葉に雪さんは「ふふふっ」と意味深に微笑んだ。
『東吾には特別、教えてあげるわね』
雪さんは首からかけていた紐のような物を引っ張る。そして、手のひらに金の鍵を乗せた。
──あれはマスターの懐中時計の鍵だ。肌身離さず持っていたのか……。