「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした……」
深く、深海さんは頭を下げる。
「このような大切なモノ、私には預かる資格なんて無かったのに」
深海さんは静かに、金の懐中時計を仏壇に置いてしまった。
「深海さん!?」
「これは、雪さんの旦那様が持つべきものでした。ずっと共に時を刻める方と」
「でも……」
雪さんの気持ちも確かめずに、本当に返してしまって、いいのだろうか。と言っても、確かめる方法はもう無いのだけれど、でもこのままじゃ駄目だと本能的に思う。
「それでも、深海さんに持っていて欲しい気持ちは変わってないと思います!」
それを深海さんに何て伝えればいいのか、私自身の気持ちもまとまっていなかったからか、伝えたい事全てが抽象的な表現になってしまった。
「ありがとうございます、来春さん」
その「ありがとう」はどこか諦めと私への気遣いがこもっていて、無力な自分に悔しさが込み上げる。
「違うんです、深海さんっ。だって、鍵を孫の東吾さんに預けるくらい、深海さんの事を待ってたんですよ!」
これで伝わってるのかはわからない。だけど言葉にする事をやめたくない。