「これは……」
「深海さんの持つ、懐中時計の鍵です。他界する前に預かりました」
それを受け取ると、深海さんは大事そうに握りしめた。
「この懐中時計の鍵を見るのは初めてです」
「マスターの懐中時計は相当古いね。今のはだいたい鍵なしのリューズ巻きで、そこでぜんまいも巻けるし、時刻も合わせられるんだ」
──深海さんが雪さんからもらった懐中時計って、そんなに古いんだ。
空くんも珍しく驚いた様子だった。
「その懐中時計……祖母の父の形見なんです。私も実際に目にするのは初めてですが、祖母から聞きました」
「その形見を私に……何故なのでしょう」
深海さんは驚いたように東吾さんと懐中時計を交互に見つめる。
「よっぽど、深海さんの事が大切だったのだと思います。そうだ、祖母に挨拶されますか?」
それは、仏壇にという事だろう。私たちは「ぜひ」とお線香をあげさせてもらう事になった。
「ゆっくりしていってください」
部屋に案内されると気を利かせてか、東吾さんが席を外す。お線香をあげて、深海さんは静かに遺影の中で微笑む雪さんを見つめていた。
──雪さん、綺麗な人だな……。
タレ目で、穏和そうな印象だ。目尻のシワを見ると、よく笑う人だったのだとわかる。