「私は、遅かったのですね」
「ですが、まさか祖母の亡くなったこの季節に深海さんが訪れて来るなんて。ずっと、お渡ししたいモノがあったんです」
そう言って、東吾さんが一度席を外す。その隙に私は深海さんに近づいた。
「雪さんと会う資格が無いなどと……そんな事を考える前に会いに行くべきでした」
深海さんが俯きながらポツリと呟く。
いつもなら姿勢のいい深海さんの背筋も、今だけは愁いを背負って丸まっていた。
「深海さん……」
「意地を張るより、もっと大切な事があったというのに」
その悲しみの重さに言葉を失う。なんて声をかけたらいいのか、わからなかった。だけど人は弱い生き物だから、本当にしたい事があっても、色んな感情に阻まれてうまく生きられないのだ。
「目指すモノを迷わず追いかけた結果、私はあなたを失った。結局、私達の時は止まったままなのですね……」
再び会う事を、きっとお互いに信じてた。だけど、もう二度と会えない場所に雪さんは逝ってしまったんだ。
「お待たせしました、これです」
東吾さんは戻ってくると、深海さんに金色の小さな鍵のような物を渡す。