「祖母に聞いていた通りの方だ。深海さんは芯が強く、誰よりも慈愛に溢れた方だと」
「私はそのような大それた人間ではありません。あの時、雪さんに辛い選択をさせてしまったのは私が若く、弱かったせいなのですから……」
深海さんは今もあの時の選択を後悔しているのかな。なら雪さんは今、何を思っているのだろう。その胸にあるのは後悔なのか、切なさか、忘れられない恋情か。
「ですが、祖母はよく深海さんの事を話していました。祖父の事は愛していましたが、忘れられない大切な人がいると」
──忘れられない大切な人……。
深海さんも雪さんの事をそう話していた。2人はきっと、心で繋がっていた。
「あの、雪さんは今……」
「あぁ、大切な事をお伝えしていませんでしたね。実は去年の夏に、祖母は他界しまして……」
「っ……そう、でしたか……」
深海さんが耐えるようにそう言った。
──嘘でしょう、やっと決意して、ここまで来たのに。
その事実に、希望を絶たれたような絶望感が襲ってくる。