「……もし、雪さんが深海さんの事を忘れていても、深海さんには私達がいます!」

「来春さん……」

軽く、深海さんの目が見開かれる。

「だから、後悔しないように思いっきりぶつかってきてくださいね」

私の言葉を聞いた深見さんは、目を細めるようにして、微笑んでいた。

「……来春さんは、どこか拓海くんのお母様に似ていますね」

「え、拓海先輩のお母さんに?」

「その存在だけで、周りの人も明るくしてしまう、太陽のような人です」


深海さんは私を見つめているのに、他の誰かを思い浮かべているような、どこか遠い目をしていた。

──拓海先輩のお母さん、明るい人だったのかな。

似てるって言われると尚更、生きているうちに会ってみたかったなと思ってしまう。それが叶わないことが、無性に切なくなった。

「その恩恵は、家族には向けられなかったがな」

「拓海先輩……」

そう言った拓海先輩の声は、冷たかった。拓海先輩はまだ、お母さんの事を許せずにいるのかもしれない。人を憎み続ける事は、きっと苦しいはずだと胸が痛んだ。

「そろそろ行くぞ、マスター……いいか?」

拓海先輩の言葉には、深海さんへの気遣いが感じられた。

「えぇ、行きましょう」

意を決したように深海さんはインターフォンを押す。