「来春さん、ウインナーコーヒーです」
「わぁ、いい香りっ」
しかも、コーヒーの上にホイップクリームが乗っている。それだけでポイントはかなり高い。
「カフェ文化の花が開いたオーストラリアウィーンで誕生したコーヒーなのですよ」
「へぇ~、いただきます!」
ドキドキしながらカップに口をつければ、濃くて苦いのに、瞬く間にホイップクリームのまろやかさが広がって、芸術的なハーモニーを生み出す。
「んん~っ、美味しいっ」
「そんなに喜んでいただけると、煎れたかいがあります」
あの、駅前で飲んだミント抹茶マキアートとは大違いだ。あれのせいでダダ下がりだった気分も、深海さんのコーヒーで急上昇する。苦味に頭はスッキリするし、甘味に心がほっこりとした。
「拓海くんは、ブラックでいいかな?」
「あぁ」
拓海先輩は静かに答えた。そして鞄から本を取り出すと、静かに読み始める。
──拓海先輩、ブラック飲むんだ。
なんかイメージ通りかもと、こっそり遠くから噂のイケメンを鑑賞する。
「……なんだよ」
さすがにガン見しすぎたのか、不機嫌そうな拓海先輩がこちらを振り返った。
「ヒッ、い、いえ……」
この人、背中に目でもついてるんじゃないだろうか。人間離れした勘の鋭さに恐怖する。