電車で5分、私達は伏見稲荷駅にやってきた。神社が近くにある事もあり、駅の中にも赤い柱が建っている。そこからお土産参道や踏切を超えて、歩く事10分。私達は一軒の日本家屋の前に辿り着いた。

「随分立派な家だね」

空くんが言った通り、私達が見上げる目の前の建物は屋根付きの門と石塀の上に木製の柵で囲まれた大きくて風情のある立派な屋敷だった。

その塀から飛び出しているのは、青葉をつけた桜の木だろう。都会ではあまり見ない日本建築の奥ゆかしさに、気持ちまで落ち着いてくるようだ。

「前園……恐らくここで間違いありません。雪さんの家は古くからある呉服屋さんなのです」

──へぇ、呉服屋さんだったんだ。

だからこんなに立派なお家なわけねと、納得する。

「深海さん、心の準備、大丈夫ですか?」

心配になって深海さんの顔を覗き込むと、深海さんは眉をハの字にして無理に笑った。

「頑張ります」

「深海さん……」

「私の事なんて、遠い過去になっているかもしれませんが……」

どんな顔をして会ったらいいのか、一番最初になんて声をかけようとか。たくさんの想いが深海さんの中で渦巻いてるのかもしれない、そう思った。