「お前……俺の事なんだと思ってるんだ」

「ふふっ、いえ、嬉しいですよ、拓海先輩!」

──浴衣、悪くないって言おうとしてくれたんですよね。

そんなの、嬉しくないはずがないと、顔が緩む。

「素直じゃないなぁ」

「おい」

納得いかなそうな顔をする、そんな不器用な拓海先輩の事が、なぜか最近すごく気になる。

「俺は、褒めたつもりは……」

「2人とも、電車来ちゃうよ!」

遠くで空くんが叫んでいる。拓海先輩と話していたら、いつの間にか距離が空いてしまっていたらしい。

「ふふふ」

「ニヤニヤするな、空たちに変に思われる」

「ありがとうございます!」

お礼の言い逃げをして、私は拓海先輩の浴衣の袖を引っ張る。こんな風に私がワガママ言っても、きっとこの人は私を突き放したりはしないんだろう。

「何がありがとうだ、皺になるから離せ」

「はいはい、行きますよ拓海先輩っ」

「……人の話を聞け」

拓海先輩の抗議はことごとく無視をして、前を歩く空くんたちの元へと引っ張る。いつか、このまま光り溢れる世界に私がこの人を連れて行きたい、そんな事を思って。