「ふふふ、いいんじゃないですか、楽しむのも」

深海さんは拓海先輩の肩に手を置いて、はしゃぐ私に賛同してくれた。拓海先輩は額に手を当てて、「マスターは甘すぎだ」と呆れるように言う。

「そういう拓海くんも空くんも、来春さんには甘いと思いますよ」

「冗談はよしてくれ」

拓海先輩は心底嫌そうな顔で、キッパリそう言い切った。
2人の会話を背中越しに聞きながら、私はというとせっせと着物レンタル店の扉に手をかける。

「フカミ喫茶店御一行様ーっ、行きますよー!」

ガイドさんのノリで手を上げる私に、拓海先輩と空くんは仕方なくといった様子で付き合ってくれるのだった。


そして、浴衣に着替えた私達はさっそく雪さんの家があった場所へと向かう。

「雪さんの家って、伏見の方なんだよね。それならそこで奈良線に乗ろう」

空くんが、携帯のナビアプリを見て、そう言った。

「空くん、頼りになります。私は生まれてこの方、携帯という物を使った事はありませんが、随分便利なんですね」

「今は、マスターでも使える簡単な携帯もあるよ」

「へぇ、そうなんですか?では、検討してみましょうかね」

空くんの手元をのぞき込みながら歩く深海さん。その後ろを拓海先輩と一緒についていく。

チラリと隣の拓海先輩を見上げれば、黒地の波のような縦縞しじらの浴衣で黒髪だからか、さらに大人っぽさを感じた。

──しかも、たまに見える首筋とか、涼しげな表情とか、尋常じゃない色気が……って変態か。

私は頭を大きく横に振ると、慌てて煩悩を振り払った。