「彼女も待ち人に会えなかったのか、私と同じように途方に暮れて駅のベンチに腰掛けていました。そこで話したのが出会いです」

「わぁ、ロマンチックです!」

まるで、映画の中の恋みたい。この時代にもし携帯があったなら、深海さんの恋は始まらなかったのだ。そう思うと不思議な気持ちになる。

「それから、一緒に出掛ける事が増えまして。笑うツボや食事の好み、あらゆる価値観が雪さんとは合ったのです」

「じゃあ、それが決め手で雪さんに恋を?」

「そうですね。不思議と雪さんとなら、先の未来が見えたと言いますか」

少し照れながらはにかんだ深海さんに、幸せのお裾分けを貰ったような胸の温かさを感じる。

──それにしても、結婚後の未来かぁ。

付き合っても無いのに、そういうビジョンが浮かぶもんなんだ。しかも、このときの深海さんは私と同い歳だ。

私は結婚の「け」の字も想像できないし、ずっと先の話だなと思う。そう考えると自分ってまだまだ子供なのかもしれないと少し凹んだ。

「それに、携帯の無い時代でしたから、相手が待ち合わせ場所に来るのかドキドキしたり、電話も家にかけるとお父様が出たりして、ハラハラしたのを覚えています」

「なるほど、今なら考えられない状況ですね」

今の高校生なんて、家の固定電話になんてまずかけないし、携帯も家族に見られないようロックをかけて、秘密厳守するだろうから。