「……ずっと、言いたかったんですけど」

ついに耐えられなくなった私は、とうとう切り出す。全員の空気が凍りつく気がした。それは真冬の吹雪の中、裸で寒い昭和ギャグでもぶちかましました、くらいの勢いで。

「あの、え……?」

どうしたものかとみんなの顔を見渡すも、目が合わない。不自然に逸らされて、新手のイジメかと泣きたくなる。

「あのぉー、みなさん本当にどうしたんですか?何か様子が変ですよ?泣きますよっ!?」

朝、出勤したまではいつも通りだったのだ。いつも通り深海さん以外は私を無視していたし、それが普通なのに急におかしくなった。

「拓海先輩は本が逆さだし」

とりあえず、面倒だが一つずつ指摘する事にする。

「俺は……どんな向きでも読める」

「そういう話じゃないんで!」

どうしていつもと違う事が起きてるのかを、私は聞いているのだ。

「空くんも深海さんも、独り言激しいし!」

「……来春の気のせい」

空くんはフイッとそっぽを向いてしまう。

全部私の考えすぎだ、みたいに持っていかれても。私はそうくるかと溜息をついた。

「そうですね、はっきり聞かなかったのがいけなかったのです」

深海さんが深刻そうにそう言った。急に空気がシリアスモードに入り、私は何を言われるのかと唾をのむ。
喉がゴクリと鳴って、口の中がやけに乾いた。

「……来春さん、バイトを辞めてしまうんですか?」

「……はい?」

──辞めるって、私が?

なんでそんな話が出てきたのか、私は失礼だと思いながら、ぞんざいな返事を返してしまった。