「待っている間、コーヒーをお入れしますね」

「あっ、ありがとうございます!」

椅子を引いてくれた深海さんに促されて席につく。深海さんがカウンターの方へ歩いていくのを見送り、私は改めて店内を見回した。こんな所が、近所にあったなんて知らなかった。雰囲気もいいし、今度親友にも教えてあげよう。

「あ、いけない」

すると、何かを取りに深海さんは店内の奥へと消えた。私は必然的にこの空間に取り残される。そんな時だった、カランッカランッとベルを鳴らして、お店の扉が開く。そして、入ってきた人物と目が合った。

「あ?誰だ、お前」

何もしていないのに、目が合った瞬間からまるで不審者を見るような目で、相手は怪訝そうに私を見る。だけど私は、その理不尽な扱いに怒るより先に驚きの方が勝っていた。

「な、何故ここに……」

「それは、俺が聞きたい」

いや、私が聞きたい。だって彼は、うちの高校ではかなり有名人なのだ。

前野 拓海(まえの たくみ)、高校3年生。スラッとした手足にモデル顔負けの整った顔。サラサラの黒髪がどこか清潔感を感じさせる、無口でクールなイケメン先輩。