「そんな……そうなの、凪……」

「お嬢様……」

視線の先にいたのは、凪くんだった。2人は今にも泣きだしそうな顔で見つめ合う。

「そんな、どうして、そんな事……あるわけっ……」

「里依子さんを、救うためだったんだろう」

拓海先輩は凪くんをチラリと見てそう言った。
りぃはまだ事実を受け入れられないのか、あるいは認めたくないのか視線をさ迷わせている。

「じゃあ全て、私のために?」

「罪深い事をしたと自分を責めながら……そいつは鏡を割ったんだ」

りぃのために、凪くんは罪を犯した。こんなに切ない真実があるだろうか。りぃの目から零れる涙に、凪くんは俯く。

そうか、だからユウガオの話をした時、凪くんは気まずそうな顔をしたんだ。

「まさか、ユウガオの事までバレちゃってるとは思わなかったなぁ。そうだよ、あれは俺の罪の象徴なんだ」

困ったように笑う凪くん。

「ということは、幽霊に見立てた俺の馬鹿な嘘も、探偵さんには見破られてたって事かな」

砕けた凪くんの口調。たぶん、こっちが素の姿なんだろう。それを痛ましい気持ちで見つめる。きっともう、何を隠しても無駄だと悟っているようだったから。

「あぁ、あの呻き声のテープレコーダーも、倉庫に俺等を閉じ込めたのもお前だな」

「はは、バレてたか……。でも、なぜ俺だと?」

「最初に話した時、お前は『倉庫で鏡が割れたり、変な声が聞こえたり、気味悪い事ばかり起きている、人の仕業じゃないのでは』と言っていた。それが、まるでそう思わせたいかのように聞こえて、逆に怪しかった」

「そっか、大げさすぎたのかな、俺は」

凪くんは頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。